April fool2015
  クールなカカシと真面目なイルカ先生の場合  
     
 

里の誉れと謳われるはたけカカシは非常に冷静な男である。つかみどころのないこの上忍は受付とアカデミーを兼務している黒髪の中忍うみのイルカと恋仲であったが、恋人へ対する態度もたいそう淡白だった。しかし上忍は任務のない時、常に恋人の側にいる。行き帰りの迎えはもちろん、昼食も共にする仲睦まじさだ。黒髪の中忍は生真面目な質であるから、クールな性格の上忍との恋人関係とはそんなものなのだろうというのが周囲の認識だった。


4月1日の受付所、今日も上忍が恋人を昼食に誘いに来た。


「イルカ先生」
「はい」

相変わらず色のない声だ。名を呼ばれた黒髪の中忍は目を上げた。

「昼食に行きましょう」

この上忍、淡白でいながら恋人のシフトは完全に把握しているらしく、ちゃんと昼食休憩のはじまりに迎えにくる。いつもならばここで中忍は周囲に会釈し席をたつのだが、今日は様子が違った。きょとん、と首をかしげて上忍を見つめる。

「あの、どちらさまで?」

上忍は一つしか見えていない右目を見開いた。中忍が困ったような笑みを浮かべる。

「申し訳ありません。えっと、以前お会いしたことが?」
「先生?」

普段感情を表に出さない男の声に当惑がにじむ。中忍はそれに気づいた風もなくハキハキとこたえた。

「確かに私はアカデミーで教師をやっておりますが、あ、アカデミーのご父兄の方ですか」

がたん、と椅子から立ち上がるとうみのイルカは一礼した。

「これは失礼いたしました。私の担当は低学年なもので」
「あの、先生、オレ、カカシですが…」
「はい?カカシさんとおっしゃいます?どちらの生徒さんのご父兄でいらっしゃいますか?」
「オレがわからないんですか?」
「あの、失礼ながらどちらのカカシさんで」

スッと受付所の温度が下がった。

「……アンタ、今朝もオレと朝飯食べたじゃない」

剣呑な空気を漂わせはじめる。

「何忘れた風よそおってんの」
「はぁ、装ってるとおっしゃられましても」

だが中忍に動じる気配は全くない。眉を寄せる上忍に向かってにっこりとした。

「今朝一緒に食事をしたのは妻とですが、どなたかとお人違いなさっていらっしゃるのでは?」
「つっ妻ぁっ?」
「えぇ、今年で結婚四年目になります妻です」
「けっ結婚っ…アンタ、結婚してたのっ?」
「はい、四年前に火影様の紹介で知り合いまして…って、あの?」

傍目にもわかるほど上忍は真っ白に固まった。顔にがーんと書いてある。

「あのぅ?」
「しっ…」
「し?」
「死んでやるーーーっ」
「ええっ?」
「死んでやる、四年もオレを騙してたなんてっ」

きぃぃ、と身を捩った上忍はそのままドアに突進する。ぱっと涙の粒が周囲に散った。

「えっ、ちょっ」
「死んでやるぅぅぅっ」
「ちょっと待って」
「イルカ先生のバカーーーっ」
「待ってって、カカシさんっ、嘘です、エイプリルフールですってばっ」
「わぁぁぁん」
「カカシさん、待ってーーーー」

ドアを蹴破らんばかりの勢いで飛び出していった上忍を黒髪の中忍が慌てて追いかけていく。あとにはかろうじて蝶番に引っかかったドアがギィギィと揺れていた。




「誰だい、エイプリルフールなんぞをうみのに吹き込んだのは」

腕組みをした五代目に受付同僚達が身を縮めた。

「………いや、まさかはたけ上忍がああなるとは」
「クールを地でいくはたけ上忍が取り乱すとは思わなくて」
「四年前に結婚って段階で普通気がつくと…」
「あの二人、同棲して確か四年くらいになってるはずなんで…」
「「「「なぁ」」」」

顔を見合わせる職員たちの前でドン、と机が鳴った。

「バカだねっ、常識が通用するなら写輪眼のカカシなんて二つ名背負っちゃいないよっ。だいたい、真面目が服きて歩いてるイルカが冗談言うとは思わないだろっ」

ざぁぁ、と職員たちは青ざめた。

「どーすんだい、この始末」
「「「「はたけ上忍お待ち下さいーーっ、オレらが悪かったですーーーーっ」」」」

同僚達が一斉に受付所を飛び出していく。蝶番からガタンとドアが外れて落ちた。

その日、受付所は麻痺状態だったという



☆☆☆☆☆



後日、五代目からこってり絞られた同僚達は執務室の横の部屋で山のような書類整理をやらされていた。

「なぁ、そういやはたけ上忍、イルカに騙された時、『死んでやる』って言ってたよな」
「フツー『殺してやる』じゃね?」
「だよなぁ、中忍にコケにされたら普通は制裁するよな」
「でも『死んでやる』なんだ」
「イルカがさ、カカシさん可愛いって連呼してるわけ、なんかわかった」
「オレも」
「うん、オレも」
「やっやらないからなっ、カカシさんは絶対やらんからなっ」
「わぁ、イルカ」
「どっから出てきたイルカ」
「落ち着けイルカ」
「カッカッカカシさんは、カカシさんのかわゆらしさはオオオレだけのっ」
「わかったからイルカ」
「っつかいらねーからはたけ上忍」
「マジでオレらの萌えじゃねーから」
「オレら、フツーにかわゆらしい女の子がいいから」
「イルカさ、お前それはたけ上忍の前で言ってやれよ」
「そーだよ、ちゃんと言ってやんねぇからすぐ不安になっちまうんだぞ」
「あ、イルカが赤くなった」
「首まで赤くなった」
「ツンデレの変種だな、お前って」
「「「「デレははたけ上忍本人にしてやれよ」」」」


翌日、受付同僚達の元に木の葉牛A5ランクステーキ肉とシェ・猿飛特製ステーキソースのセットが届けられた。差出人の名はなかったが、それが黒髪の同僚の恋人であることは明白で、改めて上忍の実力を思い知ったとか。

「……はたけ上忍、どこで見てたんだろ」
「………わかんね」
「怖ぇのか可愛いのか」
「イルカすげえな」
「うん、すげぇ」


 

 
  2012年に日記ブログに書いていたものを大幅に書き直しました。整理していたら出てきたんでせっかくだからと。今年はちゃんとイベントに間に合ったな(胸を張る)